25歳の女性が脱力感、疲労感、息切れ、皮膚の変色を示しました。
その女性の88%の酸素飽和度は酸素を補っても改善しませんでした。
メトヘモグロビン血症と診断されました。
今回NEJM誌(The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE)に掲載されていたのは、局所麻酔薬使用後にメトヘモグロビン血症が起きてしまったというものでした。歯痛に対してベンゾカインを大量に使用したところ、発症したということです。実は局所麻酔薬はメトヘモグロビン血症を起こします。
酸素飽和度(SpO2)は、血液中(動脈)の多くのヘモグロビンの何%が酸素を運んでいるかを示しています。正常値は96 %以上、95 %未満は呼吸不全の疑いがあり、90%未満は在宅酸素療法の適用となります。
出典:Warren OU, Blackwood B.Acquired Methemoglobinemia. N Engl J Med. 2019 Sep 19;381:1158.
歯科では、普段あまりベンゾカインは使わないと思いますが、リドカインはよく使われると思います。ベンゾカインほどではないにせよ、注意が必要です(頻度はとても低いです)。
メトヘモグロビン血症の治療法
メトヘモグロビンはヘモグロビンの3価鉄(Fe3+)を還元して2価鉄(Fe2+)にしてあげれば治療となります。治療に使われるのはメチレンブルーです。魚を水槽に入れて飼っている人にはお馴染みだと思うのですが、水槽にいれる青い液体がメチレンブルーです。寄生虫予防のために用いられます。
メチレンブルーは体内で還元酵素(NADPH:還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)によりロイコメチレンブルーとなり、メトヘモグロビンの Fe3+をFe2+に還元し、自らは酸化されてメチレンブルーに戻ります。NADPHがあればこの反応が繰り返されます。
メチレンブルーは1回1~2mg/kgを静注すると、速やかに症状が改善します。ゾンビが人間に戻るような変化が数分で起こります。日本では2015年に認可され使用できるようになりました。
日経メディカル 2019/9/26
薬師寺 泰匡 (岸和田徳洲会病院救命救急センター)