国民健康・栄養調査は1945年から厚生(労働)省が継続して実施している調査であり、日本全国の300地区程度の調査データを基に、日本人全体の身体状況、栄養摂取、生活習慣について検討・報告している
今回の論文は、その調査のデータを東京医科大学の(予防医学)公衆衛生学教室のグループがまとめたものである。
図を見て明らかなのは、男女ともに20歳代から60歳代までの世代が歩数を継続して減らしてきているのに対して、元来、歩数が少ない世代である70歳代が歩数を維持していることである。歩数の多い人たちが生き残るようになったという可能性はゼロではないが、日本人の平均寿命が延びていることを考えると、実際にその世代だけは歩数を増やしているのであろう。
20~60歳代と70歳代の相違は、労働に携わっているかどうかである。健康日本21の報告においても、運動しない理由として、時間の不足や仕事・家事での疲労が挙げられていたようである。そのように考えると、2019年に施行された働き方改革関連法に伴い、今後残業が減り、時間的・体力的に身体活動に向かう余力が増加し、身体活動量が増加するであろうか。まずは、これからの数年の身体活動量の変化に要注目である。
それともう1点、身体活動量を増加させるためのポイントとして個人的に思うことを挙げたい。ここ数年、メデイア等ででタレントが美しいボディに変わる様子を写真で示すことで、その効果を「結果にコミット」とうたったスポーツクラブがある。この企業は「健康になる」ことではなく、「格好良くなる」あるいは「美しくなる」ことを示すことで、高額な会費であっても相当数の顧客集めに成功した(している)ようである。
これまでわれわれ医療従事者は、「運動しないと病気になる」「運動すれば病気が良くなる」という指導で、健康増進や有疾病者の疾病治療に運動療法を持ち込もうとしてきた。しかし、それではどうもうまくいかないように思う。医療機関が運動療法を推奨・指導するに当たって(あるいは国が国民の身体活動量を増やそうとするに当たって)、「格好よくなる」あるいは「美しくなる」ことをうたうのは下品と思う方もいるかもしれない。
しかし、動機はどうであれ、身体活動・運動はそれを増やした者勝ちである。医療機関でも(国家でも)、「かっこ良くなろう」「美しくなろう」、そうしたうたい文句、釣り言葉で患者(国民)を運動に巻き込んでいければと思う。
表.日本人の歩数の推移
例えば、1995年当時、8,000歩弱だった男性の1日歩数は2013年時で7,500歩程度であり、2016年においては7,000歩強となっている。1日の歩数が1万歩以上の人の比率も1995年当時は30%弱だったものが、2013年時で20%強となり、2016年には20%を下回っている。
逆に1日の歩数が5,000歩未満の人の比率は、1995年当時は30%弱であったが、2013年には30%台半ばであり、2016年には40%弱まで増加している。日本人はどんどん動かなくなっているのである。
この1日の歩数の推移を年齢層別に示したのが図である。
図.年齢層別に見た1日の歩数の推移